落語家について
二ツ目(ふたつめ)
前座修行を平均して三~五年ほど経て、二ツ目に昇進します。前座のうちは落語家では無く、あくまでも前座ですが、二ツ目はようやく「落語家です」と名乗れるようになります。
前座の頃につけられた面白い名前を改名したり、一門に伝わる「名跡」(註4)を襲名する事もありますが、我が師匠の六代目円楽の様に前座の頃からの名前(楽太郎)のまま真打になる落語家もいます。私も前座名のまま二ツ目となりました。
紋付、羽織、袴の着用が許されます(前座のうちは紋の無い着流しのみです)。昔の商店で喩えるなら、前座は丁稚(小僧)、二ツ目が番頭、真打が暖簾分けといったところでしょうか。寄席の番組表にも自分の名前が載ります。
前座の頃は決まった「前座の上がり」という三種類くらいの出囃子だったのが、自分専用の出囃子で高座に上がる事が出来る様にもなります。出囃子はいわばテーマ・ソングです。
また、自分の名前が入った手拭いを染められる様になります。噺家にとって手拭いは高座での小道具でもあり、名刺代わりでもあります。
お正月には自分の師匠からはお年玉が貰えますが、自分の師匠以外からは貰えなくなり、前座に渡す側に廻ります。
二ツ目になると基本的に師匠宅に通わなくなり、楽屋働きから解放されると同時に、師匠方からの落語会の仕事の量が激減します。その為、自ら会を主催する事になります。コツコツと勉強会を開いたり、独演会を開いて芸を磨き、真打昇進に備えます。
真打(しんうち)
二ツ目として十年前後過ごすと、真打に昇進します。
真打になると弟子が取れる様になるので、「師匠」という敬称で呼ばれるようになります。稀に前座や二ツ目の事も「師
匠」とつけて呼ばれる方がいらっしゃいますが、真打以外は決して「師匠」と呼びませんのでご注意下さいませ。
真打になると寄席でトリを務める様になります。寄席では、似た傾向の噺(註5)を「根多がつく」といって避けます。例えば、与太郎(註6)が出てくる根多が先に掛かってたら与太郎の出てくる噺は避ける、お酒を飲む噺が出てたらお酒を飲む噺は避ける、といった具合で、トリともなると掛けられる根多がかなり絞られますが、それでも困らない数の根多を覚えているのです。
万が一、自分の師匠が亡くなった場合、前座、二ツ目は他の真打の門下に入りますが、真打は自分の一門を興せるので、誰かの門下に入る必要がありません。
註釈1 トリ
その日の一番最後の出番の出演者。寄席では「主任」と書いて「トリ」と読みます。
註釈2 木戸銭
入場料の事です。
註釈3 根多帳
我々は縁起担ぎで「ネタ」を「根多」と書きます。一般の方のイメージでは、ネタ帳と聞くと台本の様なものを想像される事が多い様ですが、寄席の根多帳は出演者が何の根多を高座に掛けたか、演目を記入するもので、後に出演する噺家が何を掛けるか考える目安となります。
註釈4 名跡
「みょうせき」といいます。何代目○○といった一門に伝わる名前です。
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